移行前『無職ソラリスの日常』

宇宙一のダメ人間を見て安心してもらうための日記。

【エッセイ】雨と憂鬱のなかの求職活動

 

雨が木々の梢を鳴らす。

降りしきる雨は断続的に降り続き、やがて気づかぬうちにやんでいた。

「雨、やんだね」

母が言った。午後も降る予定だった雨は、早々に小降りになり、時折小雨が降る程度になっていた。

 

私は、なぜだか気が急いていた。

派遣会社から電話が来るといわれていたからだろうか。一向に来ない電話を待ちながら、心の中で「またか」とつぶやいた。

最近はずっと雨模様だ。


ひどい大雨のせいで大きな被害が出ている地域もある。
恵みの雨は、度を越せば災害になる。
大雨、台風、地震津波といった大災害に襲われることが、もはや日常の一部となっているのか、ニュースで見てもあまり驚かなくなっている。

 

感覚が麻痺している。

 

ある日突然、災害によって死ぬこともあるかもしれないのだと、ぼんやりと考えた。

『もし明日死んでも良いように』

そう思いながら暮らしているつもりではあったが、災害で死ぬのはどれだけ苦しいだろうか。
痛いだろうか。悲しいだろうか。辛いだろうか。

「まだ死にたくない」と思うだろうか。もし目の前で大切な人をなくしたら、私は正気でいられるだろうか。


我が家は、正直大して災害に対する備えをしていないように思う。
兄弟が買った災害用のトイレとか、缶詰とかしかない気がする。

それでもいいのだと思いつつ、ひもじくて死ぬのは嫌だな、なんて思う。
ただ、もしも家族の誰かが苦しんでいたら、私は自分よりもその人を優先するかもしれない。

優しさとか自己犠牲精神とか、そんなお綺麗なものではない。
私はただ、置いていかれたくないだけだ。
昔も今も、ずっとずっと。
私が置いていかれたくないだけ、である。

 

災害で家族を皆亡くして、生きる運命を背負わされるなんて、そんなものはまっぴらだ。誰かを失うのも、嫌だ。私は兄弟のなかでも末っ子で、お迎えが来るのは一番最後かもしれないなんて、そんなのもまっぴらだ。

 

明日死ぬ想像はできるのに、年老いた自分は想像できない。

どこかのファンタジーみたいに、老いる前に砂になって消えられればいいのに。

 


……こうしている間にも、日がすっかり暮れ落ちていた。

 

18時前、いそいそと派遣会社の受付担当さんにメールを送る。

30分後くらいだろうか。やはり電話がかかってきた。

 

「すみません。あの案件は、お伝えしていた枠が埋まってしまったらしく、
別の枠を営業担当が今探している最中でして……」

そうして、別の仕事も紹介された。家からそこそこ遠いので、私は少し渋ってしまった。

「また連絡します」

電話を切った。ツーツーと、音がした。
やはり何だか、うまくいかない。

 

営業担当も忙しいのだろう。以前にも同じことがあった。受付担当が電話が来るはずと言いつつ、うまくいかなくなると、電話をよこさないのだ。

 

それはよほど、人間らしい。

 

「また明日があるさ」なんて、安っぽいことを思いながら、時々憂鬱になるこの気持ちが、『不安』というものだろうと、他人事のように思っていた。

 

 

 

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